照りつける太陽の暑さと、耳を貫くセミの声。
「……あぢぃ……」
宿泊用の重いキャンプ装備を背負ったアインが、水平線の彼方の入道雲を恨めしそうに睨みつける。
8月中旬。
夏休みもあともう少しで終わる、そんな時期。
男子部と女子部の寮生を対象にした、生徒会主催の一泊合宿が開催された。
場所は、学園から徒歩約1時間の海岸。テント設営や自炊などを含む総合学習プログラム。
引率の教員は4名ほど。プログラムのほとんどが生徒会主導で進められる。
「おぃアイン、こんくらいでヘバんなよ〜」
同じ荷物を担いで「今から楽しいことすんだから」と、ニヤニヤ笑うシシマルをすかさずどつき。
シシマルに悟られないようにアインは視線を行列の先頭へ向ける。
海へと向かう合宿参加者達の先頭には、分散した生徒会のメンバー。
タスクと楽しそうに話しながら列を気にするブライアンの姿に、胸の奥に燻る衝動を奥歯で噛み殺して。
シシマルとふざけながら、何事もないような顔で、アインは歩いていく。
* * * * * * * * *
午前9時、合宿が始まった。
テント設営や救命講習など、予定された様々な学習プログラムを次々と終えて。
「――っしゃー! 遊ぶぞーっ!!」
夕食の支度までの間、数時間の自由時間。
待ちかねたように服を脱ぎ捨て、水着になった生徒達が海に飛び込む。
午前午後の講習の間に仲良くなった男子部と女子部の生徒がはしゃぎ声を上げる。
合宿に使われる海岸は、遠浅の海と1km程度続く砂浜、岩場に防風林、という、身をくらませるには絶好のロケーション。
だが、生徒会や教員の巡回と見つかった時の厳罰の為か、砂浜を離れる者はあまりいない。
「……アホくせぇ……」
女子部の生徒とはしゃぎながら手を振るシシマルに、うんざりした顔でシッシッと手を振って。
木陰に寝そべって大騒ぎな砂浜を眺めながら、アインはため息をついた。
言ってみれば年相応、アインにとっては正直子供っぽい女子部の生徒は、初めから興味の対象外で、楽しそうにはしゃいでるシシマルの気が知れない。
これならまだ、一人で岩場をウロウロしてた方が楽しい。
砂浜にブライアンの姿を探しても、あちらで溺れている生徒がいないか監視、こちらで体調不良の生徒の救護と急がしそうで、ほんのちょっとだけ『何か』を期待していたアインにとって、つまらない事この上ない。
……本当は、ちょっとだけ、2人きりになれないかと期待していた。
あの七夕の日から、ブライアンと言葉を交わしていない。
視線が合えばかわされ、同じ場所に居合わせれば立ち去られ。
元々アインとブライアンは教室で話す仲でもないし、ごく自然にそれをされているので、ブライアンがアインを避けている事に気付いている者も少ないのだが。
夏休みに入って、会う事も無くなって。
これで訳の分からない苛立ちから開放されると一息ついていたのに、今度は、偶然見かけたブライアンの表情に、真夜中の夢に、胸の奥をかき乱されて。
砂が乾くように、喉をかきむしるくらい、乾いている自分がいる。
2人きりになってどうするかなんて、何も考えてない。 ただ、2人きりになりたかった。
「……チッ」
休む気配のないブライアンの様子に舌打ちして、気だるげに立ち上がる。
岩場に向かうアインを止める者は誰もいない。
* * * * * * * * *
「ブライアン、休憩行ってこいよ!」
交代で取っている休憩から戻ってきたタスクは上機嫌だった。
「……? タスク、何かあったのか?」
首を傾げるブライアン。そんな親友に、思わず抱きついて喜びのあまり首を締め上げるタスク。
「! っく、苦しい……っ!」
「聞いてくれよっ、ルーシアがさっ! ダンパOKしてくれたんだぜっ!!」
「!」
思わずもがくのも止めてマジマジとタスクを見つめ。
「……やー…ったな〜っ!」
満面の笑みでタスクの首を絞め返すブライアン。
ルーシアは女子部生徒会の書記だ。
ふぇ〜だ学園生徒会は男子部と女子部の交流が活発で、その中でブライアンとタスク、ルーシアの3人は、自然と仲良くなった。
早くから、タスクがルーシアを気に入ってる事に気付いていたブライアン。こっそりと応援していたのだが、ルーシアの方が意外と気付かず、アプローチするもタスクが涙を飲む事多数。
実は、毎年恒例の寮生夏合宿には1つのジンクスがある。
合宿の夜、キャンプファイヤーと同時に行われるダンスパーティ。そこでペアを組み告白すれば幸せなカップルになれる、という。
ありがちなジンクスだけど、信じている者も多い。
つまり、ペアを承諾するというのは、告白OKにも繋がる訳で。
「やっとだなぁ〜、タスク……」
「ああ!」
なかなか報われなかった親友の快挙に、しみじみとブライアンは喜びを噛み締める。
そんなブライアンの肩を叩いて、ウキウキとタスクは言い放つ。
「でさっ、この後の仕事も一緒にする事になったから! お前は休憩、たっぷり取っていいぜ!」
ブライアンの分の仕事も一緒にする事で、ずーっといちゃついとくから♪ と口外に宣言され。
「……わ、わかった。――じゃあ、俺、休憩行ってくる」
タスクの浮かれようにかなりゲッソリしながら、他の生徒会メンバーに休憩を告げ、ブライアンは仕事から抜け出した。
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