* * * * * * * * *
(……疲れた)
トボトボと海岸を歩きながら、ブライアンはため息をつく。
合宿に参加する生徒は朝7時半集合だが、準備のある生徒会メンバーは6時には既に学校入りしなければならない。
暑さと、寝不足と、引率メンバーの仕事の緊張が、疲労感としてブライアンにじわりと圧し掛かっていた。
実は最近、あまり眠れていない。
空調は効かせてあるのに、寝苦しさに目覚めて、夜の海を眺めている事も多い。
(……アイン)
今朝、集合している参加者の中にアインを見つけた時、ブライアンは思わず目を見開いた。
アインは集団行動にあまり好んで参加しないので、きっと合宿にも来ないだろうと安心していたのに。
今回、長時間、自分と同じ空間に拘束される合宿に参加したのは想定外で。
(恐い)
声を聞きたい。そばに居たいと思うのに。
今は同じ空間に居たくなかった。
冷たい視線を送られる事が。嫌われる事が恐くて。
それ以上に、アインにそうされた時に、多分きっと抑える事ができない、自分の感情が恐くて。
ずっとアインを避け続けている、自分がいる。
砂浜と、それに続く岩場の背後に、取り囲むようにして植えられている防風林。
休憩時間だが、一人になりたいのと、見回りもかねて、防風林の木陰を歩いていく。
一人きり。ゆっくり歩いて、防風林を抜けて、奥から岩場をつたい、少し泳いで、生徒達のいる砂浜へ戻るつもりだった。
かさり、かさり。
足元に落ちた葉が、音を立てる。
少し風があるせいで、岩場に打ち付ける波の音が大きく響いてくる。
涼しい木陰から出るのをちょっぴり嫌だなぁと思いつつ、目を細めて、ブライアンは防風林の中から、眩しい太陽の下へ、岩場へと足を進めた。
崖が海水に削られ、割られたてできたような、大きな岩が積み重なったような岩場。足を滑らせないように慎重に歩いていく。
聞こえるのは、岩に打ち付ける波の音。
(……?)
波音に混じって何か聞こえたような気がして、ブライアンは立ち止まった。
ちょうど目の前には、視界を隠すように大きな岩がある。岩と岩の間を縫うようにして進む、そんな場所。
(……気のせいか)
耳をすませても波音以外しない。気のせいだ、と、さっきまでと同じように足元に気をつけて、岩の間を抜けた瞬間。
「っ、ァ、あ――ッ!」
耳を貫いた嬌声と目の前に現れた光景に、ブライアンは動きを止めた。
見えたのは、岩壁に手を付くようにして立ち、身体を支えている腕。
快楽に眉を寄せてあえぐ、ウルフリングの女の顔。
女の背後から圧し掛かり、胸をもてあそぶ、銀色のたくましい腕。
肩に顔を埋め、女の身体が揺れるほど、背後から強く突き上げて。
「っあ、イン……ッ、い……ッッ!」
高い声を上げながら、女の顔が首を振った拍子にブライアンの方に向けられた。
潤んだ瞳が立ち尽くすブライアンの姿を映し、次の瞬間、その口元が、ゆっくりと妖艶に弧を描く。
くねらせた腰から、ぐちゅり、と濡れた音が響いて。
もっとぉ、と甘くねだる声に顔を上げたアインが、次の瞬間、目を見開いた。
「い、いんちょ……」
その目に映ったのは、無表情のまま立ち尽くすブライアン。
ふ、と動いた身体が、アインの横を通り抜けようとした瞬間。
思わず捕らえた腕が、一瞬の間もなく振り払われ。
「触るな」
聞いたことも無い、冷たい、硬い声に、アインの動きが止まる。
するりと横を通り抜けた身体は、振り返りもせずに岩の向こうへと消えた。
「……なーに、やってんの」
身体の下から聞こえる呆れた声に、未だ繋がっていた事を思い出し、突き飛ばすように身体を離す。
「ひっどいわねー。何よ、ガッツイてたくせに。見られた位で萎えちゃってさ〜」
「……黙れ。シェリー」
殴り倒したい衝動を葉を食いしばって堪える。女を殴るのは性に合わない。
「はいはい、黙りますよ〜だ。何よ、ダッサいわね。追いかけたいなら追いかければいいじゃない」
もそもそと水着を直しながら投げつけられた、ふてくされた言葉。
弾かれたようにアインは立ち上がり、振り返りもせずに岩の向こうに消えていく。
「ふざけんじゃないわよ、このインポ!」
あんまりな態度のアインに向かって、シェリーは石を投げたのだった。
* * * * * * * * * *
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
ブライアンの息が上がる。足がよろめいて、近くの岩に手をつく。
早く、早くこの岩場を抜けないと、いけないのに。
「っ、委員長、待てよっ!!」
背後から聞こえた声に、硬直した身体がバランスを崩した。
ふわりと浮いた身体が、とっさに伸ばされた太い腕に捕らえられる。
強い力で引っ張られた後、何かにぶつかったような衝撃。
「……っぶねー」
耳元で聞こえた声。
アインの腕の中にいることに気付いた瞬間、ブライアンは全力でもがき出した。
「っは、なせ……っ!」
「離すかよっ!」
振りほどかれそうな腕をアインは全力で押さえ込む。
ブライアンの身体に圧し掛かり、手首を掴んで押さえつけて。
「触るな……っ、俺、に……っ!」
押さえ込まれ、それでもなお、もがきながら叫ぶブライアンに。
自分の中で蠢く凶暴な衝動を抑えていた「何か」。それが壊れる音を、アインは聞いた。
* * * * * * * * * * *
揺さぶる度に、かくり、と、ブライアンの首が人形のように揺れる。
シャツで猿轡をかませた口からは、うめき声も聞こえなくなって。
ぼんやりと開かれた瞳は、何も映さない。
「……」
ずるりと自身を引き抜いて、アインはブライアンの身体を岩の上に横たえた。
猿轡を外せば、開かれた唇の端から唾液が溢れ落ちて。
口を寄せて、それを舐め取る。
ブライアンの身体のあちこちには、血を流す傷痕。
強烈な痛みと恐怖で、俺をその心に刻みつければいい、と。
肉を噛みちぎり、血を甘露と啜った、残酷な跡。
手首にくっきりと残る、押さえつけた痣。
血と、多量の白濁にまみれた、意思を失った身体。
その惨状に、半ば呆然と、アインはブライアンを見詰めた。
……俺が、やった、のか。
こんなつもりじゃなかった。
とにかく、捕まえて、シェリーの事を弁解したい一心で追いかけて。
それなのに、全力で抵抗し、自分から逃げようとするブライアンに。
拒絶されたと、感じた瞬間。
目が眩みそうな怒りと憎しみに、壊してしまえ、と、心が呟いた。
手に入らないなら、壊してしまえ、と。
着ていたシャツで口を封じ、腕を拘束して。
よがり狂え、と、イケないようにブライアン自身の根元を締め付けたまま、後ろを攻め立てて。
射精(だ)せないまま何度も後ろでイカした。
自分の歯が、ぶちりと皮膚を突き破り、肉を噛み千切る感触。
その度に上がる、くぐもった絶叫。
繰り返す強制的な絶頂と激痛と、それに混じる粘着質な音、血を啜る音に。
開放された自身からとめどなく白濁を吐き出して。
ブライアンは壊れた。
うめく声もなく、快楽の反応もなく。
揺さぶれば、生理的な反応だけで、コプ、と白濁を溢れ流す。
ガラスの瞳の、人形に。
動かないブライアンを見つめ、アインは自分に問いかける。
こんな事を、俺はしたかったのか。
「……ちげぇよ」
本当に、自分がしたかったのは。
「――」
手のひらでそっとブライアンの目を閉じさせると、シャツで身体を包んで抱き上げ、アインは歩き出した。
* * * * * * * * * * *
合宿に同行した保健医フレイアの元に、傷を負ったブライアンが運び込まれたのは、夕方少し前。
運び込んだアインとブライアンの様子を見て呆れたように肩をすくめると、ブライアンを受け取って、当分ブライアンに近づかない事と、合宿終了後改めて保健室に来ることを厳命して、アインをテントの外へと追い出した。
「……ったく、トンでもない事してくれるねェ……」
私がサイコセラピストじゃなかったらどうするつもりだい、と苦く呟いて。
誰も来ないように「休憩中」と札を出し、ブライアンの手当てに取り掛かった。
ブライアンの件はフレイアの一存で秘密裏に処理された。
誰にも知られないように手当てされ、自分を取り戻したブライアン。
他の生徒会メンバーを心配させるからと、倒れそうな身体を押してキャンプファイヤーとダンスパーティに形だけ参加した。
自分の仕事も終わり、賑やかな場から外れ、一人になれる場所を探してひっそりとうずくまる。
炎を見つめるブライアンの頬に、涙が伝わった。
抱えた膝にゆっくりと顔を埋めて。
誰にも知られないまま、静かに、声も無く、ブライアンは泣いた。
〜* Lust for summer - END *〜
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[ Lust for summer - 3] 2010.9.2 up
文章中に一部、強姦/残酷な描写がありますが、
それらを勧めているわけではありません。
表現として扱っていることをご了承くださいm(_ _)m
保健室の先生に、フレイアだしちゃった(笑)
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