夜。
ベッドから窓を見上げてため息をついた。
眠れない。時間はとっくに午前を回っているのに。
起き上がって、部屋に置いておいた水のペットボトルを手に、窓枠にもたれかかる。
小高い場所にある男子寮。
3階のこの部屋からは、少し離れた海までが良く見えた。
暗闇の中、月の光を弾く銀の海面に、ブライアンは少し目を伏せる。
(……アイン)
暗い海面に走る銀の光が、アインの髪を思わせて。
そんな事ですら、泣きたくなるような痛みを感じる胸に、どれだけ好きなんだかと自分に苦笑する。
きゅっとペットボトルを握り締め、瞳を閉じて。
(……嫌われてるんだな、俺)
昼間、渡り廊下の下から、自分を睨み付けたアインの目を思い出す。
泣き出したい衝動を隠し切った自分は偉かったと、少し笑う。
あの、七夕の日以来、自分に向けて話しかけるアインの声を聞いていない。
……声が、聞きたい。
自分に向けてなくていい。ただ、話している声でいいから。
あの、低い、深い声を聞いていたい。
……本当、は。
あの声で、ブライアン、と、俺を呼んで欲しい。
叶うことないのは、判り切っているけど。
* * * * * * * *
「俺のモンだっ!!」
耳元で怒鳴られたような大声に飛び起きた。
それが自分の声だったと気付いて、夢を見ていたのだと気付く。
胸くそわりィ……ッ!!
真夜中。
ベッドの上に起き上がったアインは、苛立ちに任せて枕をベッドに叩きつけた。
ぼふん! と弾む枕。怒りをぶつけるように、何度も何度も叩きつける。
何度叩きつけても苛立ちは収まらず、枕を放り投げてアインはベッドに倒れこんだ。
さっき見た夢の残像が、頭に焼き付いて消えない。
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夢の中、ブライアンが、生徒会長タスクと楽しそうに笑っていた。
笑うブライアンの頬に、目を細めたタスクの片手がゆっくり添えられて。
頬を包み込む手のひらに目を細め、ブライアンが妖艶な笑みを浮かべた唇をほんの少し開いて。
重なった唇、交わす口付けに、自分が見た事ない表情を晒して。
唾液を引きながら唇が離れた後、蕩けた瞳でうっとりと微笑んだブライアンに、頭が沸騰した。
飛び掛って、押さえつけて、ぶち壊して。
体はそう動いているのに、近くにいるはずなのに、まるで透明な壁に阻まれたように近づけない。
もがく俺の前で、ブライアンの指が、シャツのボタンを1つずつ外していく。
ボタンを半分外し、ブライアンが妖しく微笑む。ちろりと見せ付けるように舐め上げた中指を、唇から喉を伝って胸まで、ゆっくりと滑らせていって。
くらりと仰向いたブライアンの喉に、吸い寄せられるようにタスクが唇を落とした。
怒りに頭が真っ白になる。
もがきながら、俺は叫んだ。
ざけんなっ!! そいつは俺の……。
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「っくそッ!!」
収まらない苛立ちでベッドを殴りつける。
「何だってんだッ……!」
ギリギリと歯噛みして、もう一発ベッドを殴った。
自分には決して見せない表情を、タスクに晒すブライアンに。
ブライアンに愛しそうに触れるタスクに。
自分以外の男に喜んで体を触れさせるブライアンに。
殺意さえ感じた。
「何で、こんなッ……!」
苛立つのか。
めちゃくちゃに、壊してやりたい衝動に駆られるのか。
自分にとって、ブライアンは単なるオモチャだったはずだ。
自分に刃向かうブライアンが気に入らなくて、そのプライドを壊した。
踏みにじって、腕の中で壊して、思い通りに動く人形にして。
結局それも気に入らなくて、捨てた。
それだけのモノだ。
なのに、何でこんな。
「腹立つ……ッ!」
夢だって分かってるのに頭が沸騰する。
どうせ思い通りにならないのなら、今すぐ壊してやりたい。
どっか閉じ込めて。
狂って、俺だけ見て笑ってればいい。
「……ハ、ハハッ……」
髪をかきあげて。
目を見開いたまま笑う。
一番わかんねェのは、俺の頭ン中だ。
捨てたオモチャに対して、何考えてる?
「――オモチャじゃ……ねェ」
零れ落ちた言葉は、誰か別人の言葉のようにひどく遠くに聞こえた。
「アイツは――オモチャじゃ、ねェ」
本当は……判ってた。
アイツが、オモチャなんかじゃねェって事は。
俺がオモチャにしたんだ。
俺が捨てたんだ。
アイツが、俺の思い通りになんねェから。
――俺のモンに、なんねェから。
「ハハ、……ダッセェ」
笑うしかねェ。
ガキみたいに、全部ぶち壊しておいて、今更何かに気付くなんて。
俺とアイツの間には、取り返しの付かない傷の他に、何にも残っちゃいねェ。
アイツは俺を見ねェ。
もう、どうにもなんねえ。
それだけの事をしたのは、俺だ。
身体の裡にある、暴れだしそうな凶暴な衝動を持て余す。
どうせ、手に入らないなら、いっそ――。
この衝動を、何て呼ぶのかなんて。
考えたくもねえ。
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[ Lust for summer - 2] 2010.8.12 up
すみません、今回はイラスト無しで……。
タスク、ごめんよぉぉぉぉ(こっそり)
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