「っあ!ううっ……!」
 ぐいっ力を込めた俺の手に腰を深く沈めさせられて、汗に濡れた身体が悲鳴に近い声を上げた。
 辛そうに寄せた眉、零れ落ちる涙。
 後手に縛り上げられて自由の利かない体がキツく熱く俺を飲み込む。
 いつもポーカーフェイスで滅多に表情を変えないブライアン。
 そのブライアンが、今、俺に犯されて涙を流し、哭き声を上げる。
 濡れた瞳、俺だけに見せるその顔……、たまんねえ。ゾクゾクする。
 「も……ヤメろッ……! アインっ……」
 途切れ途切れの懇願に、逃げかかっていたブライアンの腰を一気に引き戻す。
 頭の上で上がった切ない悲鳴に笑い、ブライアンの顔を引き寄せた。
 「言えよ、お前の気持ち。言うまで止めてやらねぇ」
 俺の言葉に、ぎゅっときつく瞳を閉じ唇を噛み締める。
 今までとは違う種類の辛そうな表情。
 「……何のこと……ぁあっ!」
 その表情は一瞬で、すぐに戻ったポーカーフェイスに俺は腰を強く動かし始める。
 上がる悲鳴に酔いながら囁いた。
 「いっちまえょ、ホントのこと」

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ー−

 解放軍拠点キャンプでの昼食時。ごった返す人の中で、俺はそれを感じた。
 まただ。
 ブライアンが俺を見てる。 
 背中を追うその視線、気付いたのはいつからだったか。
 振り向いても、目を反らせて見てない振りをするのは判ってる。だから俺も振りむかねえ。
 ただ、必要以上に俺を追う視線、その意味が判らずに俺は少し戸惑ってる。
 温度すら感じるほどじっと俺を見つめる視線。
 ブライアン、何で俺を見るんだ? 

 それは、スクルド砂漠の解放軍前線ベースキャンプでのこと。
 日程を押してベースキャンプに入った直後、ブライアンが倒れた。
 原因は疲労。
 遊撃部隊のスケジュール調整から資金や物資の管理、果てには戦闘で先陣切って派手に立ち会ってりゃあ無理もねぇ。
 医師から隊長に3日安静を言い渡された遊撃部隊は、そのままベースキャンプでブライアンの回復を待って待機することになった。
 やっと休める! 久しぶりの休みに歓声を上げる遊撃部隊。
 はしゃぐ仲間を尻目に、俺は、俺とブライアンに割り当てられた部屋へと向かう。
 解放軍の中でもゲリラ的に大きな成果を上げる遊撃部隊。元低国軍の俺達に対する各地解放軍キャンプの人の態度はまちまちだが、ここスクルドは割と友好的で、隊長のブライアンと副隊長の俺は2人で1つの個室を割り当てられている。
 「生きてるか? ブライアン」
 扉を閉めて振り向くと、分厚いレンガ壁の少しひんやりとした室内、備え付けのベッドの上でぐったりと横になっていたブライアンがぼんやりと目を開けた。
 「まぁな……」
 弱々しい声で呟き、微かに苦笑いを浮かべる。
 「こんな事で倒れるなんて、ざまぁないな」
 「しょうがねぇさ。ここんとこ強行軍だったろ、お前は何でも自分でやりすぎなんだよ」
 疲労から高熱が出ているらしく、少し喋ってすぐに目を閉じてしまった。
 身体がきついらしく息が荒い。
 「喉、乾かねぇか?」
 「少し……」
 ベッドから少し離れた(気の利かねぇ奴らだ)テーブルの上にある水差しからコップに水を注ごうとブライアンに背を向けると、視線を感じた。
 まただ。
 いつも俺を見るブライアンの視線とは違う、あの視線。
 コップを左手に、水差しを持ち、注ごうとして……。ふと、何気なく振り向いてみた。
 この視線を向けている時、どんな目で俺を見てるのか……、それが分かれば、どういうつもりでこんな視線を俺に向けるのか判るかもしれないんだか。
 期待はしていない。どうせまた、いつものように視線を反らせて何気ない顔をするんだろう。
 けれど、そこに見たのは。

 切なそうに眉を少し寄せて、うるんだ瞳で眼差しを俺に向ける、今まで見たことも無いブライアンの表情。
 高熱のせいでぼんやりして反応が遅れたらしく、一瞬の跡、慌ててその表情がポーカーフェイスに戻った。
 「……どうした? アイン」
 投げかけられただるそうな声に、
 「いや、何でもねぇ」
 水をコップに注ぎながら答える。
 ドキン、とした。
 微かに開いた唇。少し寄せられた眉、うるんだ瞳、熱っぽい眼差し。
 今だけ、熱のせいじゃねぇ。あれが、見たことも無いあの表情が、視線を感じた時の、俺を見つめている時のブライアンの表情!
 「……起きれるか?」
 水を片手に声をかけると、起きあがろうとして……身体を腕で支えきれずにベッドに崩れ落ちた。
 「無理すんな」
 身体を起こそうと腕を背中の下に入れると、触れた体がビクンと震えた。
 気付かない顔で抱き起こし肩に寄りかからせる。
 「ほら、ゆっくり飲めよ、遠慮すんな」
 「すまねぇな……」
 微かに苦笑いしながらコップを受け取り、大人しく飲み始める。
 伏せられた瞳、熱い身体。水を飲み終えたブライアンをベッドに横たえると、水を飲んで少し身体が冷えたのか、すぐにウトウトと眠り始めた。
 隣のベッドに腰を下ろしながら眠るブライアンの顔を見つめる。
 どんなつもりで、あんな目で、あんな表情で、ブライアンは俺を見るんだ!?
 触れた腕に震えた身体。熱っぽいうるんだ瞳、普段は絶対俺に見せないその表情。
 「……まさか、な」
 はは、と小さく笑ってベッドにひっくり返った。
 男同士の恋愛は軍隊じゃよくある話だ。恋愛じゃなくても、性欲処理として気の合う奴とヤったりする事も、そう無い話じゃない。
 いい話じゃないが、若い頃何人かの悪友と一緒に俺も何度かオイタをしたことがある。
 ……だが、なあ?
 この、いつも冷静であまり表情を変えない、ノーマル一直線間違い無しの、ブライアンが?
 「ありえねぇよな……」
 笑って否定しても、あの表情、あの眼差しが目に焼き付いて離れない。
 無理やりそれを打ち消して、ひと寝入りするかと目を閉じた。 

 夕方。
 少し熱が下がったのか、昼間よりいくらか楽そうにブライアンは眠っている。
 晩飯を食べに部屋を出た俺は、食事の後についでだからとブライアンの為の薬とスープを持たされて部屋に帰った。
 扉を開けると、横になっているブライアンが微かに目を開けて笑った。
 「起きてたのか」
 「ちょっと前にな。ご飯持って来てくれたんだろ、すまない」
 「いいってことよ。さっさと食って薬飲んじまえ」
 ベッドの上に起きあがったブライアンに少し目を見張る。
 「もう起きれるのか?」
 「ああ。ここについた時に飲んだ薬が効いたらしい。だいぶ楽になった」
 ベッドの上でスープを食べるブライアンを見ながら、ぼーっと考える。
 やっぱり違うよなぁ……。このブライアンに限って、そんな事あるわけないよなぁ……。
 「……水、とってやろうか?」
 「すまない、頼む」
 空になった皿を受け取り、テーブルの上の水を取ろうとブライアンに背を向けたその一瞬後。
 (……!)
 背中に、あの視線を感じた。
 間違い無い。あの目で、あの表情で、ブライアンは俺を見ている……!
 ゾクッと背筋に震えが走る。それは嫌悪感から来る悪寒ではなく、武者震いだった。
 いつも冷静なこの男の剥き出しの素顔を見てみたい。
 誰にも見せない顔を、きっと俺だけが見ることができる。
 ブライアンは自分からは絶対に言わないだろう。それなら、俺が言わせてやろうじゃねぇか!
 コップに注いだ水を持ってベッドまで戻ると、何も言わずにブライアンの手から薬をとり、口に放りこんだ。
 「アイン、それ、俺のッ……」
 言葉は続かなかった。
 水と一緒に口移しで一気にブライアンの口に流し込む。
 「〜〜っ!!」
 硬直しているブライアンの腕を取ると、ズボンのポケットからバンダナを抜き出して、すかさず後手で両腕を縛り上げる。
 むせたブライアンの胸元を無理やり流し込んだ水が濡らした。
 苦しそうに咳き込むブライアンを、縛り上げた両腕を敷きこんで仰向けに押し倒す。
 「上着、着てなくて良かったな。このままだと身体冷やすから拭いてやるよ」
 つっと胸元に這わせた指にその身体がビクンと震えた。
 「やめろっ!!」
 身体を使って動きを封じているため、身動きすら自由にできない。
 「何のつもりだ、アインっ!」
 戸惑いと怒りを含んだ声に少し笑いながら、
 「どういうつもりだろうなぁ?」
 きゅっと乳首をつまんだ。
 「っ!!」
 ビクンとブライアンの背中がしなり、目が見開く。
 「お前が俺に言いたいホントのこと、それを言えばすぐに止めてやるよ」
 「何だよそれっ!!」
 戸惑いと怒りがごっちゃになった表情に、笑いながら、棟をゆっくりとじらすように撫でまわす。
 だんだん荒くなる息、火照ってくる身体。楽しめそうだ。
 「ホントにわかんねぇのか?」
 笑いながら肌に舌をつけた。

 声を上げないように噛み締めた唇に血が滲む。
 必死にポーカーフェイスを装っていたその表情が、両足を開かせた時、さすがに変わった。
 「やめろ……ッ!!」
 「だから、いつでも止めてやるっていってるだろ?」
 内股に触れた指にビクッとその背が震える。
 ブライアンは確かにノーマルで、男に抱かれ慣れていないのは明らかだった。
 散々愛撫に感じていたくせに、声は我慢するわ必死に感じてない振りをするわ……。
 強情にも程がある。
 「言えよ、お前の気持ち」
 俺の言葉に唇を噛み締めてフイッと横を向いてしまう。
 頑ななその態度に苦笑いしながらブライアン自身に手を伸ばした。
 「こっちはお前より素直だよな。身体に聞いた方がよさそうだ」
 「や、やめっ……!」
 既に硬く勃っていたそれに触れた俺の指がぬるりと濡れた。
 じわりと溢れ出した液体を塗り広げてゆっくりと包み込んだ手を動かし始める。
 「……っ……!」
 「気持ちいいだろ、楽に手が動くぜ……。身体は正直だよな。止めて欲しいんだろ?素直に言えばさっさと止めてやるのに。……止めて欲しくないから言わないのか?」
 声を上げないように噛み締めすぎて噛みきってしまった唇の端から血が流れ落ちる。必死に「違う」と首を振るのに、俺の愛撫に敏感に反応する身体。硬く閉じられた瞳から涙が零れた。
 「イイんだろ? イけよ、イッちまえ!」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」
 大きくブライアンの身体が跳ねた。ビクッビクッと震える身体、吐き出されたものが俺の手を濡らす。
 解けて薄く開いた唇に軽く口付けて囁いた。
 「まだわかんねえのか? 言えよ、ホントのこと」
 硬く瞳を閉じて横を向くその姿にため息をついた。
 「……それじゃ、身体に聞くしかねぇよな。いいんだな?言うなら今のうちだぜ?」
 「…………」
 男を受け入れるのに慣れてないブライアンの身体は、絶対痛みを伴うだろう。
 こっから先は、できりゃー合意の上でやりたかったんだが……仕方ねえか。
 びくりとブライアンの身体が震えた。俺の手を濡らしたブライアンの体液を、ゆっくりと最奥に塗りこめていく。
 「言うなら今のうちだぜ?」
 返ってこない返事にため息をつくと、ゆっくりと浅く出し入れしていた指を引きぬいて硬く勃った俺自身を押し当てる。初めての感触に大きく目を見開いたブライアンが何も言わないのを確認して、一気に貫いた。
 「ぐう……っ!」
 見開いた瞳から涙が零れる。
 「痛てぇよな……。だから、早く言っちまえっていったのに」
 「あ、ああっ……!」
 動くたびに解けた唇から声が上がる。
 俺の動きに声を上げ、涙を流すブライアンの表情は、間違い無く俺が今まで見たことの無いもの。
 征服欲という昏い快感がぞくりと背を駆けあがった。
 ぎりぎりまで引きぬき、一気に突き刺す。上がる声と全てをかなぐり捨てた表情を楽しむ。
 抵抗を失った身体を抱き起こし、突き刺したまま一気に態勢を変えて自分の上に抱え上げた。
 「ひあっ!」
 更に奥まで突き刺さった俺の感触にブライアンが悲鳴を上げる。
 「っあ!ううっ……!」
 思わず逃げかかった体を、ぐいっ力を込めた俺の手に更に腰を深く沈めさせられて、汗に濡れた身体が声を上げた。
 辛そうに寄せた眉、零れ落ちる涙。
 後手に縛り上げられて自由の利かない体がキツく熱く俺を飲み込む。
 いつもポーカーフェイスで滅多に表情を変えないブライアン。
 そのブライアンが、今、俺に犯されて涙を流し、哭き声を上げる。
 濡れた瞳、俺だけに見せるその顔……、たまんねえ。ゾクゾクする。
 「も……ヤメろッ……! アインっ……」
 途切れ途切れの懇願に、逃げかかっていたブライアンの腰を一気に引き戻す。
 頭の上で上がった切ない悲鳴に笑い、ブライアンの顔を引き寄せた。
 「言えよ、お前の気持ち。言うまで止めてやらねぇ」
 俺の言葉に、ぎゅっときつく瞳を閉じ唇を噛み締める。
 今までとは違う種類の辛そうな表情。
 「……何のこと……ぁあっ!」
 その表情は一瞬で、すぐに戻ったポーカーフェイスに俺は腰を強く動かし始める。
 上がる悲鳴に酔いながら囁いた。
 「いっちまえょ、ホントのこと」
 この表情をブライアンにさせられるのは俺だけだ。
 痛みの中に快感が混じり出す。苦痛の表情に、甘く酔った色が混じり出す。
 「言えよ、俺が好きなんだろ?」
 痛みと快感がごちゃまぜの表情がくしゃっと歪んだ。

 「言わな……いっ……! 言っても、どうに……も、ならないじゃ……ないか……っ!」
 今にも泣き出しそうな、幼い表情。
 とうとう本音をさらけ出したな。
 「そうやって自分で抱えちまうのは、お前の悪い癖だぜ」
 微かに笑いながら耳元で呟いた。
 「まだわかんねぇのか? こうやってお前を抱いているのは誰だ? 
  俺がお前を抱いてるのに、言ってもどうにもならないなんて、まだ言うのか?」
 きょとんと俺を見つめた後、大きく見開かれた瞳からポロポロ涙が零れ出す。
 「アイン……っ!」
 泣きながら俺を呼んだその顔が、動くにつれて快感に染まってく。
 深く貫かれてブライアンが絶頂に達するのと、俺がブライアンの中でイクのはほぼ同時だった。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ー−

 数日後。
 神殿でのミッションを終え、ベースキャンプに帰ってきた俺達はつかの間の休息を取っている。
 ブライアンはいつもの通りポーカーフェイスで、あの時の出来事が何だかウソみたいだ。
 「……? 何だよ?」
 ぼーっと見ていると、林檎をかじっていたブライアンが訝しげな顔をした。
 「いや、別に……。それ美味いか?」
 「ああ、結構美味いぜ。一口いるか?」
 「おう」
 差し出された手を捕まえてぐっと引き寄せる。
 「っ?!」
 ぺろりと口を舐めてしれっと言ってやった。
 「うん、美味いな」
 「な……なななななっ!」
 ボンッと赤くなり何を言っていいのか判らなくなったブライアンの様子に、おれは思わず笑い出した。

 

 前言撤回、コイツ、おもしれぇ!


 
〜 終 〜

「熱帯夜」

小説&一番上の挿絵…いずみ//挿絵残り3枚…ななちょ
な:つぅ事で!【ふぇ〜だ屋】初の合作となりますv
ブライアンの操を初めてアインが奪った話...ッ!(爆/笑)
普段ポーカーフェイスなブライアンのあられもない姿を
表現出来たと思いますのでとッても満足感で一杯ですv(殴)
そして同時にとッても反省点有り...orz 背景手抜きせず描けよ(爆)

2006.04.01 いずみ&ななちょ