「Honey day」
 ……久しぶりの、休日。
 比較的戦況が穏やかな地区へと入って、珍しく、俺たちも1週間の自由を与えられた。
 定められた宿舎を拠点に、皆、それぞれ好きなように散っていく。
 町へ出る者、訓練をする者、必要な物の調達に走る者。
 それぞれが、思い思いの休日を過ごす、そんな日々の、ある1日。

「……ブライアン」

 休日になっても相変わらず庶務に追われていた俺を、アインが呼んだ。

「何だ?」

 目はやらず、返事だけ返す。
 こっちは忙しいんだよ。クソッ、何でここの物資と金額の計算、合ってないんだ!

「ブライアン」
「……っ、今忙しいって、見たら判るだろっ!」

 食堂のテーブルに巻き散らかされた書類。休日返上でずっと仕事をしていた俺は、何もせずにただ目の前に座って俺を見ているアインに思わず怒鳴り返してしまった。

「あ……」

 見上げた先には驚いた顔。

「……っ、すまん、っ……」

 気まずくなって俯くと、腕を組んでムツカシイ顔をしたアインが、フッと動いた。
 ぐいっと腕をつかまれ、立たされる。
「なっ、何っ……!?」
「あん、なぁ〜」

 呆れたようなため息。
「他の奴らは休んでんのに、お前はいつまで経っても仕事かよ」
「だって、俺がやらなきゃ……」

 目の前に立っていたアインが、す……と身を屈め、俺の顔を下から覗き込んでくる。

「俺はどーなんだよ」

 蒼い目が細められて、俺を捕らえた。

「ずっと待ってんだぜ、お前が仕事やめるのを」
「あ……」

 どきん、と胸が疼いた。
 行軍に次ぐ行軍、野営、皆一緒のキャンプ。
 あれ以来、2人きりになる場所なんてなくて。
 人目を掠めてのキス、なんてのはあったけど、それ以上は、とうてい無理な話で。
 上がる体温に、息を詰める。
 ――いや、駄目だ、まだ仕事は終わってないんだし。
 でも、何だか怪しい雰囲気で。

「だ、だって、仕事終わらせないと」

 俺はもう、既に逃げ腰。
 駄目だ、ぜったい無理っ。あんな恥ずかしい真似、もう出来ない!!

「……何で逃げんだよ」

 フッとアインが笑った気がした。

「……っ、何でもないッ!!」

 じり、と近づいてくるアイン。少し下がる俺。
 気付けば、壁際に追い詰められていて。
 頬に上がる熱に気付かれたくなくて顔を背ければ、声を殺して笑う気配がした。
「たまんねェな」

 腕の中に閉じ込められて、顎を捉えた手で無理やり仰向かされる。

「どうした、何で逃げんだよ」
「逃げてなんか……ッ」
「そうか」

 ふっと腕が緩み、捉えられていた空間が開く。
 思わず身を翻してそこから逃げ出した俺を、間髪いれずに大きな手が捕えた。

「ほら、逃げたじゃねぇか」

 笑い混じりに引き寄せられ、また腕の中に閉じ込められる。
 頬に掛かる息に、触れた肌に――足の間を割ってズルリと内腿に触れたアインの足に、身体の熱が一気に上がる。――目が眩む。
 変だ、俺……。何で、こんな……。

「素直じゃねぇなぁ……」

 くく、と喉の奥でアインが笑った。

「素直に仕事やめねぇと、力づくで部屋に連れてくぜ?」

 耳元で響く低い声に、ぞくん、と背筋に痺れが走る。
 あ……、と声が漏れた俺の身体が、かくんと崩れかけて。
 俺を閉じ込めていたアインの腕が、力強く身体を抱きとめた。

「〜〜〜〜〜」

 悔しくて、恥ずかしくて、言葉にならない。
 あの時初めて男を知ったのに、回数なんか重ねてないのに。
 何で、俺の身体、何でこんな……っ。
 目を上げて仕事中の机を見る。散らばった書類、片付けないといけないのに。こんな状態、仕事になんかなる訳がない。

「……連れてけよっ、早く……ッ!」

 片付けてくれる誰かに、ゴメン、と心の中で頭を下げて。
 真っ赤になった顔を、アインの胸に伏せた。

 
 
 
 半ば引きずられるようにして連れ込まれたアインの部屋。
 入るなり、放り投げるようにしてベットに転がされて。

「ま、まままま待って、ッ!」
「待たねぇ」

 押さえ込まれるようにして、熱い身体に圧し掛かられて。

「どんだけ俺が待ったか判ってんのか、コラ」

 目の前で脱ぎ捨てられ、あらわになる、逞しい上半身に、息を呑む。

「……お前だって」

 顎を取られ、息が掛かるほど顔を近づけて。

「息を上げて、目ェ潤ませて……やらしィ顔、してんだぜ」

 判ってんのか、と囁かれて、イヤイヤと首を振る。

「こん、な、俺……ちが……っ」

 恥ずかしくて。
 抱かれ慣れている訳じゃないのに、こんなにもアインに反応する自分の身体が怖くて。

「……っん! やぁ、ッ」

 上着の裾を潜り込んで胸の突起を弾いた指。走った感覚に頭の中が溶けていく。
 ビクンと背中を仰け反らせて。
 感じる自分の身体に怖さを覚えて、ほろほろと涙がこぼれた。

「……ブライアン?」

 声を殺して泣く俺に、戸惑ったようにアインが触れてくる。
 涙を掬い取る舌。低い声が優しく、どうした、と囁いた。
 ……こんな事、変だと思われるかな。言っても大丈夫かな。
 言い出せずにいる俺に、ちゅ、と優しいキスが降ってくる。
 ゆっくりと胸や脇腹を撫でるように触れる優しい感覚に、とろりとまた、思考が溶けて。

「こわい、ん、だ……」

 吐き出した言葉に感情が解けて。
 泣きながら。経験も無いのに、アインに触られてこんなに感じる自分の身体が怖い、と告げれば。
 腕の中に俺を閉じ込めて、緩く眉を寄せて覗き込むアインの瞳の奥に、何かが揺らめいた気がした。

「……ッ、ほん……っとに、お前ってヤツぁ……」

 噛み付くように口付けられて。ねじ込まれた舌に、自分の舌を絡め取られて。
 息も出来ないキスにもがいても許してもらえなくて。
 ようやく離れた唇に、上がる息が触れる距離で囁かれる。

「そんだけ……俺が好きってことだろうが」
 全身で俺を感じるくらい、お前は俺が好きなんだよ。

 太腿をなで上げる手が中心に触れて。

「キスで、触られて、こんなになっちまうくらい」

「やあっ……」

 大きな手で勃ち上がった俺自身を握りこまれて、その感覚に身体が震えて。

「気持ちいいンだろ? ブライアン……」

 アインの手でされる、それだけでも堪らないのに。
 艶めいた低い声を耳に流し込まれて、思考はぐずぐずに溶けた。

「んっ、あ、あぁっ……ッあァ、ん、んんっ、ぁあ、や、やあっ、ああッッ!」

 くちゅくちゅ……。粘着質な音と、荒い息と、喘ぎ声。与えられる感覚とごちゃ混ぜになって。

「イっちまえよ、ほら……」
「〜〜〜ッああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」

 強烈な快感が弾けて、溢れて放つ感覚に腰が溶けて。意識が真っ白になって。
 ぼんやりと戻ってきた意識の中で、白く塗れた手をアインが舐めるのが見えた。

「ァ……」

 白濁を舐め取る赤い舌に、ごくんと唾を飲み込む。
 初めて気付く。自分の中にある、渇きに。

「おれ、も……」

 アインのが、欲しい。
 アインが俺にくれる、全部が、欲しい。

 唇に当てられた指に舌を這わす。
 吸い付いて、口の中に含んで、舌でざらりと舐めこすって。
 見開いていたアインの目が、指を舐めまわす俺を見つめたまま、すうっと細められた。
 指が引き抜かれ、着ている物を全て取り払って。

「……来いよ」

 ベットに腰掛けたアインの足元に誘われる。
 開かれた脚の間、そそり起つアイン自身。指を這わせれば、熱くて、硬くて。
 俺にアインが欲情してる。そう思うだけで、嬉しくて、おかしくなりそうだった。

「無理……しなくていいんだぜ」

 苦笑交じりの声に首を振って唇を開く。

 だって、欲しい。アインが、欲しいんだ。

 半開きの唇でアイン自身に触れる。その熱に、訳がわからなくなった。
 俺の中にあるのは、ただ、欲しい。それだけ。

 ちゅぷ、ちゃぷっ。じゅぷっ。ぴちゃっ。

 口と、舌と。アインの間に響く濡れた音。
 浮かされるような熱。こもるような匂い。ぬめる感触を、根元から先端まで辿って。
 ゆっくりと頭を撫でる大きな手に、うっとりと目を閉じる。

「ひ(き)もち、い……?」
「あァ……すげぇ、いいぜ……」

 擦れた声に、嬉しさで頭の芯が溶ける。
 もっともっと、気持ちよくなって?

 口を大きく開けて、飲み込めるだけ飲み込んで。舌を這わせて。舐めしゃぶって。

「……ッ!」

 息を詰める音。ぐっと大きさを増すアインに感じるのは、息苦しさと、快感。
 口の中、俺の全部。頭を動かして、アインに触れる全部で、刺激して。

「口、放せ、ブライア」

 いやだ……ぜんぶ、おれに。

「……っクソッ……!」
 吐き捨てる声と一緒にグッと頭を押さえ込まれて。
 押し開かれた喉の奥に叩きつけられる熱さ。全部欲しいのに、飲み込み切れない。
 白濁を放つたびにはねるそれは、口を外れて、俺の顔や身体をどろりと濡らす。

「わりィ……ッ!?」

 むせ返るような青臭い匂い。頬を濡らすそれを指に掬い取って、ちゅぷん、と口に含んだ。
 ねばつくそれを飲み下して。掬い取って、また、口に入れる。
 アインが、俺に感じてくれた、証。
 ねばつくそれを飲み下すたびに、ぞくん、と身体の芯が甘く痺れて。

「もっ、と……」

 指をくわえたまま見上げた俺に、飢えたようにアインは噛み付いた。

 
 
 
 翌朝。

「腰が痛てぇ……」

 朝食を取りに降りて食堂のテーブルに突っ伏した俺に、解放軍の看護婦、アリアが近寄ってきた。

「ブライアン、書類、散らかしてたわよ」
「あぁ、すまない」

 束ねた書類を手渡しながら、アリアがクスリと笑う。

「栄養ドリンクと軟膏と湿布、用意してるから。いるなら取りに来て」
「!? ……っな、な、ッ……!?」

 絶句する、俺。
 テーブルの向かいには、腹を抱えて笑い転げるアイン。

「……っっ!!」

 恥ずかしくて。恥ずかしくて。恥ずかしくて。
 俺は真っ赤になって、諸悪の根源に向かって怒鳴ったんだった。


「お前なんか、お前なんか、だいっ嫌いだ――ッ!!」

Fin



** 後書き **
(という名の懺悔/やっぱり←爆)

『Honey Day』 如何でしたでしょうか? 挿絵担当ななちょです.
2010年新年初【ふぇ〜だ屋本舗】SS!…と為る筈だったのですが…何時の間にか3月始!(爆)
挿絵担当の私がヘタレて居た為、UPが大幅に遅れてしまいました事をお赦し下さいませ(汗)
更に言えば挿絵も線画のみで、兎に角更新を優先した為中途半端なスタイルに…(汗)
其処はもうこの甘々な空気漂う、アイvブラSSでカバーですYo!(爆)
まあ結局何時もの如く懺悔の後書きと為ってしまいましたが(駄目ジャンKA)
3月9日に如何してもUPしたかった理由が有るからなのです!

*〜* いずみ様 *〜*
Happy Birthday!!

いつも素敵なアイvブラSSを生み出して下さり有難う御座います☆
これからも尽きない限り!末永〜ぁく宜しくお願い致しますーvV(平伏)

〆が私信なサイト【ふぇ〜だ屋本舗】をこれからも良しなにお願い致します(笑)

***『Honey Day』オマケのななちょ&いずみコラボ絵チャログは後日纏めてUP致します〜***
*Updata * 2010.03/09*

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